今井正明先生著「GEMBA KAIZEN」記載の東海神栄電子工業の紹介(2)
今回も、海外で発刊された今井正明著「GEMBA KAIZEN」(ゲンバ・カイゼン)に書かれていた内容を、一部加筆・要約して紹介いたします。
長年にわたって田中社長が悩んでいたのは、社員の自己規律という問題でした。
会社設立の頃は、指定した職務をきちんとこなせる社員を雇うことも難しく、多くの問題を抱えていました。例えば、作業中にタバコを吸っている社員を注意したところ、その社員は腹を立て、機械をハンマーで殴るようなありさまでした。
人間関係や自己規律に基本的な問題があると、いくら技術やスキルを教育しても役に立たないことを田中社長は実感しました。そこで田中社長は、自己規律こそが、あらゆる活動の出発点だと考えるようになり、自己規律の柱として「掃除、挨拶、はきものを揃える」ことから取り組みました。
この三つの行動指針を取入れたことで、徐々に人間関係が向上し、品質問題への意識が高まり、機械設備の故障が減り、顧客への社員の態度が変化しはじめたことに、田中社長は驚きました。そして地域社会との関係も向上しました。言い換えれば、社員の間で意識革命が起きていたのです。
その中心となるのは、掃除活動を本格的に導入したことです。それ以降、東海神栄電子工業では、始業30分前には多くの社員が出社して、工場の現場、事務所、通路、トイレなどから駐車場、会社周辺一キロ以内の道路まで掃除をするようになりました。
以前、私(今井)が訪問した時は、現場が薬品で汚れ、社員も長靴、ゴムエプロンを付けていましたが、今では普通の上履きと作業着となり、現場もきれいに整理整頓され、床には薬品の汚れがなくなっていました。
その時の社員のコメントを紹介します。
- みんなと一緒に掃除をすることで、これまで話す機会のなかった人たちとも話すことができるようになり、今ではとっても親近感が持てるようになりました。
- 最初は、他の人より自分の場所がきれいになることを自慢していましたが、今では、他の場所が汚れていれば、いつでも手伝いに行っています。私は、掃除を通じて人間的に成長しました。掃除はすごいです。
- 営業や製造の担当者と一緒に掃除をすることで、それぞれが抱えている問題を理解できるようになりました。
- 設備に愛着が持てるようになり、汚れや異常にすぐ気が付くようになりました。
次に取り組んだのが、仕事の効率化です。社員の意識は高まってきましたが、午前中、仕事に取り掛かるペースが遅く、夕方の終業時間に近づくと忙しさがピークとなっていました。月ごとの生産を見ても同じで、毎月、月初めは生産のペースが遅く、月末になるとペースを上げて納期対応をしている状態でした。
現場には作業標準書や納期管理表がありましたが、現場の作業者がそれを理解して仕事をすることはなく、管理者の指示に従って仕事をしている状態で、一方的に現場におろしていくやり方でした。
そこで、作業標準書を再検討するために、全社員参加で土日を使って検討会を行いました。社員は既存の作業標準書と過去に起きた問題レポートを持って現場に行き、実際に作業標準書に従って作業を行い、一部社員はその作業を観察して問題点を出します。
これを繰り返すことで、改善された作業標準書を作成することができました。また、その過程で、当初は技術部門や担当管理者から与えらるだけだった作業標準書が、作業者自身も参加して見直していったことで、仕事の性格も大きく変わって行きました。
すると、作業者が変わっても、一定の作業スピードを保ち、効率もアップし、ラインのバランスも向上していくことに気がつきました。その後、パート社員もこの活動に参加することとなり、作業者は大きな自信を持つようになり、全社的な意識改革が進みました。
以前は、技術者や管理者は、現場の社員を教え導くのが自分たちの仕事だと思っていましたが、今では現場の社員と一緒になって、実態に即した作業標準書の確立に取り組むことが出来るようになりました。
参加した社員からは、「これまで、やり方を知っているのは自分だけだと思って仕事をしてきました。今日の研修で、決まった手順に従って仕事をしていけば、自分がいない時でも他の誰かがやっても出来ることを学びました。」と述べています。
また、幹部社員からは、「これまでは、作業者に好きなように仕事をさせていたことに気がつきました。その為に、作業者が変わると品質にバラツキが出て、欠勤すると他の人ではその仕事が出来ないこともありました。しかし、現場と一緒になって作業標準書を見直すことで、大きな変化が生れました。」
「掃除・挨拶・はきものを揃える」の活動から社員の意識も仕事の流れも大きく変わり、不良率は以前の1/4になり、残業も減っていきました。そして、以前はベテラン社員が行っていた作業の一部は、パートタイムの社員でも出来るようになり、利益率はアップしていきました。
このように、新たな設備投資や社員を増やさなくとも、既存の社員のやる気を引き出すことで企業体質がよくなっていきました。