今年九十八歳になる日本外科学会名誉会長の井口潔先生は、医者の立場から、心は脳にあり、脳の成長には順番があること、を多くの人たちに知って欲しいと活動されています。そして、その脳の成長に合わせた子育てをすれば、立派な成人に成長します、と話してみえます。
人間の脳は三重構造となっていて、脳幹、その上に大脳辺縁系、そして大脳新皮質系となっています。人間の脳は、最初に、他の動物にはない感情をつかさどる大脳辺縁系脳が育ち、その後に、知識、知能が働く大脳新皮質系脳が育って大人となります。
このことを知ることなく、大脳辺縁系脳の成長を阻害するような育児をすると、その子の人生を苦しめる結果を生んでしまいます。
昔の日本には、そのようなことを意識しなくとも、無意識の内に脳の成長に則したライフスタイルがありました。家庭に躾、道徳教育があり、貧しい中にも助け合い、おぎない合う中での子育てが行われていました。
しかしながら、1945年の終戦以降、日本のライフスタイルが大きく変わりました。戦後教育の中から「道徳」「歴史」教育が消え、経済の成長と共に、物の豊かさを先行する価値観、個人主義の強いアメリカ流のライフスタイルが定着していきました。
そして、子育てにおいても、躾やお手伝いを教えることよりも、最初から子どもの個性を伸ばしてやりたいと「子どもが欲するままに応える育児法」となり、一方では勉強や習い事に重点をおくようになりました。
そのことにより、感情、情緒の働きを担当する大脳辺縁系脳が成長する0歳から3歳までの間で、生活の基本ルールを教えることなく、甘やかせて育てる家庭が多くなり、感性脳が未成熟の状態で、次の知性・知能脳の成長を迎えることになったのです。
正に、感情・情緒をつかさどる大脳辺縁系こそ、生き方の受け皿ともなるもので、この受け皿をしっかりとしていくことで、精神のバランスがとれた思考回路が形成され、その後の人生をよくしていきます。
逆に、この時期に、この大脳辺縁系脳(感性脳)を鍛えることなく育った場合、現在、起きているキレる子、不登校、引きこもり、無気力、家庭内暴力や自己中心的な情緒不安定な性格となって表れてきます。そして、成人になっても、感性・情緒脳より、知識・知能脳の機能が巨大化し、人間性が薄れ、物やお金へ、そして自己への執着が強まり、人間関係がうまくとれない人間となっていくようです。
そこで今、井口先生は、この脳の成長を基本にした、0歳から3歳までの健全な幼児教育法を教えると共に、もう一つ、脳機能のバランス再生には感性教育が必要であり、その大きな働きをするのが、「日々の掃除」であると推奨されています。
掃除こそは「体と頭と心を同時に使い感性を呼びもどす最高の業」であり、人間性を取り戻していくことから、掃除活動を国民運動としていくことを願ってみえます。
私たちが、これまで力を入れてきた掃除活動には、凄い意味と役割があることが分かりました。
(※記事中の画像は、「人間力を高める脳の育て方 鍛え方」井口 潔著より)