今年から政府は、中小企業に対しても「働き方改革」として、(1)有給休暇年5日取得、(2)時間外労働の上限、(3)同一労働同一賃金、を取り入れるように法制化の方向を決めました。
一見すると、働く人たちにとって素晴らしい政策にみえるのですが、私は非常に危惧しています。
確かに、この間、大企業の社員が強制長時間残業から心身の病となり自殺したことが社会問題にもなりましたが、その背景には「人権を無視した経営姿勢」という大きな問題がありました。それは、人間に機械と同様の効率を求めるあまり、いかに効率を上げさせるかの管理手法が先行して業績のみが優先され、人間としての尊厳を無視するかのような経営であったと考えます。
その為に、働く側としても、労働=苦役=対価金銭となってしまい、働く喜びや仕事を通じての人間的成長がなくなってきているのではないでしょうか。そして職場においても、労使の区分が明確となり、社員の意見を聞く耳すらなくなり、いかに管理の下で効率を上げるかを余儀なくされているのではないでしょうか。
しかしながら、今回の「働き方改革」は、単に、働く価値観を西洋式に変えて指導を進めようとしていることに問題があるように思います。
これまで多くの日本人が、働くことに喜びを見出し、人間的繋がりや自己成長をも楽しみにしてきたのと同じように、多くの中小企業経営者は、社員と苦労も喜びも共にしてきたと思います。しかしながら今回の西洋式政策では、会社にいる時間は総て労働時間とされ、その対価として賃金を支払うことを義務付けようとしているかのように見えます。
私にとって社員は大切な働く仲間であり、仕事を通じて、人間性を高め、仕事能力を高め、よき企業人、よき社会人、よき家庭人となってもらいたいという想いで経営をしてきました。それゆえ、互いの成長を促すには、金銭には代えられない時間と場所も必要であると考え、極力、社員の自主性を尊重し、人の管理を控えてきました。
今後、会社においての総ての行為に対価を支払うことを強要されたならば、それらを行うことは難しくなり、すべてがお金中心の経営になってしまうのではないでしょうか。その結果、これまで以上に効率先行の経営となり、心の病がますます表面化していくのではないでしょうか。
その為にも、日本の先人たちが築き上げてきた人間性尊重の労使一体とした労務政策でないと、日本はダメになってしまうような気がしております。